たった今、運転席や助手席に乗っていて、ふと手から滑り落ちたスマートフォンや家の鍵、あるいは小銭が、まるでスローモーションのようにシートベルトの隙間へと吸い込まれていく瞬間を目撃してしまったあなた。
心中お察しします。「嘘でしょ…」と思わず声が出てしまったのではないでしょうか。
あのわずか数センチの隙間は、ドライバーの間では通称「ブラックホール」とも呼ばれる厄介な存在です。
覗き込んでも中は真っ暗で見えませんし、焦って手探りで探そうとすればするほど、指先が触れるたびに対象物は奥底の「絶対に手の届かないゾーン」へと押し込まれていってしまいます。
さらに悪いことに、シート下にはエアコンの吹き出し口や複雑な配線が張り巡らされており、一度入り込むとどこへ行ったのか皆目検討がつかなくなることも珍しくありません。
でも、安心してください。
今このページを開いているということは、あなたはまだ冷静さを保とうとしている証拠です。
この記事では、プロの整備士に頼る前に自分でできる、論理的かつ安全な回収プロトコルと、二度と同じ悲劇を繰り返さないための予防策を、徹底的に解説します。
一緒にその大事なもの、救出しましょう。
- 道具を使わずにシート下の死角を確保して落下物を探す手順
- ストローやハンガーなど身近な物を使った即席回収ツールの作り方
- 誤作動の危険があるため絶対に触れてはいけない配線の見分け方
- 100均やカー用品店で購入できるおすすめの隙間埋めグッズ
「あっ!」と思った瞬間にはもう手遅れ。
大切なものが闇の中へと消えていきました。
この時、最もやってはいけないのが「信号待ちなどの運転中に無理やり手を突っ込んで探すこと」です。
これは非常に危険ですし、焦りから対象物をシートレールのグリスまみれの可動部に押し込んでしまう原因にもなります。
まずは安全な場所に車を停め、エンジンを切り、深呼吸を一つ入れてから作業を開始しましょう。
ここでは、特別な工具や分解作業を必要とせず、誰でも安全に実践できる回収テクニックを段階的にご紹介します。
スマホのライトで隙間の見えない場所を探す

現代のドライバーにとって、最も強力かつ身近な探索ツールは、今まさにあなたがこの記事を読んでいるそのスマートフォンです。
肉眼ではどうしても確認できない狭く暗いシート下の隙間も、スマホの機能をフル活用することで、まるでプロが使う「工業用内視鏡」のような役割を果たしてくれます。
多くの人がやりがちなのが、スマホのライトを点灯させて上から覗き込むだけの方法ですが、これでは光が奥まで届かず、影になってしまって肝心な部分が見えません。

私が推奨する確実な方法は、スマホをカメラとして隙間に潜り込ませるスタイルです。
手順は非常にシンプルですが、少しコツがいります。
- まず、スマホのカメラアプリを起動し、写真モードではなく「ビデオ(動画)モード」に切り替えます。
- 次に、フラッシュ(LEDライト)の設定を「オート」ではなく「常時オン(トーチモード)」に設定します。これで撮影中ずっとライトが点灯し続けます。
- 録画ボタンを押し、スマホをシートとコンソールの隙間、あるいはシートの下の空間へ、自分が見たいアングルに向けてゆっくりと差し込みます。
- この時、画面を見る必要はありません。スマホ自体を「目」として扱い、上下左右にゆっくりと動かして、空間全体をスキャンするように撮影します。
- ある程度撮影したらスマホを回収し、録画した動画を再生します。
再生時はシークバーを指で操作しながら、気になるところで一時停止し、画像を拡大(ピンチアウト)して確認します。
「あ!レールの陰に光るものがある!」といった具合に、肉眼では絶対に見えなかった死角にある落下物を特定できるはずです。
位置さえわかってしまえば、あとはそこを狙ってアプローチするだけなので、解決へのスピードが一気に上がりますよ。
インカメラも活用しよう
もしスペースが狭すぎて画面を確認しながらの操作が難しい場合は、インカメラ(自撮り用カメラ)に切り替えて、画面を懐中電灯のように使いながら、画面越しにリアルタイムで隙間を確認する方法も有効です。
シートを前後に動かして隙間を広げる方法

落下物の位置が特定できたとしても、あるいはまだ見つからないとしても、次にやるべきことは「作業スペースと視界の確保」です。
自動車のシートは、乗員の体格に合わせるためにスライドレールの上に載っており、前後に大きく移動するように設計されています。
この可動域を最大限に利用する「スライド&サーチ法」を実践しましょう。
多くの人が「ちょっと後ろに下げる」程度で探そうとしますが、それでは不十分です。以下の3ステップで徹底的に死角を潰していきます。
ステップ1:最後端までスライドさせる
まずは、シートを一番後ろ(後部座席側)の限界までスライドさせてください。
電動パワーシートの場合も同様です。こうすることで、足元のレール前方付近や、センターコンソールの側面下部にある隙間が大きく露出します。
ここにお財布やスマホが挟まっているパターンが非常に多いです。前方から懐中電灯で照らし、レールの中に異物が噛み込んでいないかも確認しましょう。
ステップ2:最前端までスライドさせて背もたれを倒す
前方で見つからない場合は、今度は逆にシートを一番前までスライドさせ、背もたれ(リクライニング)を一番前まで倒してください。
そして、あなた自身は車を降りて、後部座席のドアからアクセスします。
後ろから運転席・助手席の下を覗き込むと、普段は見えないシート下の広大な空間(ガソリンタンクの張り出しやエアコンの送風ダクトなど)が丸見えになります。
急ブレーキをかけた拍子に、物は慣性で前方へ移動し、その後加速や振動で後方へ転がってくる…という動きをすることが多いため、この「後席からのアプローチ」は非常に発見率が高い黄金ルートです。
ステップ3:ハイトアジャスターで「浮かす」
意外と忘れがちなのが「高さ」の調整です。運転席には多くの場合、座面の高さを調整できるレバー(シートリフター/ハイトアジャスター)が装備されています。
このレバーを操作して、座面を「一番高い位置」まで上昇させてみてください。
すると、センターコンソールと座面の間に垂直方向の空間が生まれ、これまで指一本しか入らなかった隙間に、手首まで入るようになることがあります。
この数センチの差が、勝敗を分けるのです。
電動シートの注意点
電動パワーシートの場合、モーターや配線がシート下に密集しているため、手動シートよりも隙間が狭い傾向があります。無理に手を突っ込むと、シートを動かした際に指がギアに巻き込まれる危険性があるため、操作中は絶対に手を入れないでください。
手が届かず取れない時はハンガーや粘着テープ
「あった!見えた!…でも、指が届かない!」
最ももどかしい瞬間です。
シートレールの下や、カーペットのめくれ上がった裏側などに物が入り込んでいる場合、大人の指では太すぎて届かないことが多々あります。
かといって、プロ用のマジックハンドを常備している人は少ないでしょう。
そんな時は、身近にある材料を使って、即席の回収ツール(DIYキャッチャー)を作成しましょう。
私が推奨するのは、クリーニング店でもらうような「針金ハンガー」と「粘着テープ」を使った『粘着ロッド』です。
最強のDIYツール「粘着ロッド」の作り方

- ベースを作る:
針金ハンガーを分解し、一本の長い棒状に伸ばします。先端を少しだけ「し」の字に曲げておくと、引っかけやすくなります。もしハンガーがなければ、定規や菜箸、長い結束バンドなどでも代用可能です。 - 粘着ヘッドを作る:
棒の先端に、ガムテープや布テープを巻き付けます。ここが最大のポイントですが、「粘着面が外側」に来るように、螺旋状にグルグルと巻き付けてください。テープが剥がれて車内に残らないよう、巻き始めと巻き終わりはしっかりと固定しましょう。
作成したロッドを隙間に差し込み、対象物に「ペタッ」と貼り付けて釣り上げます。
紙の駐車券やレシート、軽いプラスチック製品なら簡単に回収できます。
スマートキーや小銭入れなど、ある程度重さがあるものを狙う場合は、粘着力の強い「ダクトテープ」を使用するか、テープをボール状に丸めて接触面積を増やす工夫が必要です。
ただし、一つだけ重大な注意点があります。それは「押し込みリスク」です。
棒で突っつく動作は、対象物をさらに奥へ、あるいはカーペットの切れ込みの内部へと押し込んでしまう可能性があります。
決して突かず、優しく触れるようにアプローチしてください。
「押す」のではなく「手前に引く」あるいは「貼り付ける」意識を持つことが成功の鍵です。
掃除機とストローで小さな落下物を吸い出す

「指輪のキャッチ」「ピアスの留め具」「お菓子の食べこぼし」「砂や埃」…。
これらがシートレールの溝や、コンソールとカーペットの極小の隙間に入り込んでしまった場合、指はおろか、粘着テープでも回収は困難です。
家庭用の掃除機やコイン洗車場の強力な掃除機を使おうとしても、ノズルが太すぎて隙間の奥までは届きませんよね。
そこで活躍するのが、SNSやライフハック動画でも話題の「ストローバキュームノズル」です。
これは流体力学…とまでは言いませんが、吸引力を分散させつつ極細の場所にアプローチできる、非常に理にかなった裏技です。
用意するものは、ストロー(10本~20本程度)、輪ゴム、そしてガムテープ(養生テープでも可)です。
- ストローを束ねる:
ストローを全て束ねて、輪ゴムできつく縛ります。この時、吸い口が平らになるように揃えてください。曲がるストローよりも、真っ直ぐで細めのストローの方が吸引力が強くなります。 - 掃除機に合体させる:
掃除機のホース(または隙間用ノズル)の先端に、束ねたストローを半分ほど差し込みます。 - 気密性を確保する:
ホースとストローのつなぎ目から空気が漏れないように、ガムテープで隙間なくグルグル巻きにして固定します。ここで空気が漏れると吸引力が激減するので、念入りに密閉してください。
スイッチを入れると、細いストロー一本一本が独立した吸引ノズルとして機能します。
これをシートレールのグリスが塗られた溝や、繊維の奥に入り込んだ場所に押し当てると、ピンポイントで異物を吸い出してくれます。
さらに素晴らしいメリットとして、「誤吸引の防止」が挙げられます。
例えば、大切なピアスを探している時、普通の掃除機なら紙パックの奥深くまで吸い込まれてしまい、後でゴミの中から探す羽目になります。
しかし、ストローノズルなら、ストローの直径より大きい物体は先端で止まります。
つまり、吸い寄せるだけで吸い込まない、一種のフィルターのような役割も果たしてくれるのです。
鍵やスマートキーがシート下に落ちた時の注意点
もし落としたものが、ただの小銭やゴミではなく、スマートフォンや車のスマートキー(電子キー)だった場合、事態の緊急度は一気に跳ね上がります。
特にスマートキーは、シート下の特定の位置(金属パーツの影など)に入り込むと、電波が遮断されてしまい、「キーが見つかりません」という警告が出てエンジンの再始動ができなくなるトラブルが発生することがあります。
「どうしても取れない!家に帰れない!」とパニックになり、工具を持ち出してシートを固定しているボルトを緩めようとする方がいますが、これは絶対にやめてください。
シートの分解はプロの領域です
自動車の座席(シート)およびシートベルトは、衝突時に乗員の生命を守るための「重要保安部品」に指定されています。
これらを固定しているボルトは、メーカーによって厳密なトルク(締め付け力)管理がなされており、一度外すと再使用不可の部品が含まれていることもあります。
素人が見よう見まねで脱着を行うと、万が一の事故の際にシートが外れるなどの致命的な結果を招く恐れがあります。
(出典:国土交通省『自動車点検整備の実施(点検整備の種類)』)
また、最近の車はシート下に「着座センサー」や「エアバッグ」の配線がつながっており、不用意にシートを動かしたり外したりすると断線やシステムエラーを引き起こします。
スマートキーが見つからない、取れない場合は、無理に分解せず、スペアキーを持ってきてもらうか、JAFなどのロードサービス、あるいはディーラーに連絡してプロの手を借りるのが、結果として最も安く、安全な解決策になります。
車のシートベルトの隙間に落とした経験後の対策
ここまでの手順で、無事にあなたの探し物は見つかったでしょうか?
もし救出に成功したのであれば、本当にお疲れ様でした。あの冷や汗が出るような焦燥感、そして無理な姿勢での作業による腰の痛み…もう二度と経験したくありませんよね。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言いますが、この問題に限っては忘れてはいけません。
なぜなら、車の構造上、あの隙間は常に口を開けてあなたの大切な物を待ち構えているからです。
ここからは、私が実際に様々なグッズを試してきた経験に基づき、コストパフォーマンスと実用性を重視した「鉄壁の隙間対策」をご紹介します。
100均セリアやダイソーの隙間クッション活用

「対策グッズにお金をかけたくない」
「とりあえず今すぐどうにかしたい」
そんな方に朗報です。
実は、私たちの強い味方である100円ショップが、このニッチな悩みに完璧なアンサーを出しています。
カー用品店で1,000円以上するような商品と遜色ないアイテムが、たった110円で手に入るのです。
特に私が感動し、現在も愛用しているのが、セリア(Seria)などで販売されている「自動車シートのスキマ埋めクッション」です。

※イメージ画像
一見すると、ただの細長い棒状のクッションに見えるかもしれません。
しかし、この商品には他の100均グッズや、なんなら一部の高価なカー用品にもない決定的な特徴があります。
それは、「シートベルトのバックルを通すための穴」が開いているという点です。
「たかが穴でしょ?」と思われるかもしれませんが、これがあるかないかで使い勝手は天と地ほどの差があります。
穴がないタイプのクッションは、単に隙間に挟み込んでいるだけなので、シートを前後にスライドさせた瞬間に摩擦でズレて浮き上がってきたり、あるいは床に落ちてしまったりします。
その度に位置を直すのは非常にストレスです。
しかし、セリアのこの商品はバックルに通して固定するため、シートを一番前から一番後ろまで動かしても、まるで純正部品のようにピッタリと追従してくるのです。
ポリエステル製の中綿入りで柔軟性があり、黒いファブリックシートの内装であれば違和感なく溶け込みます。CX-8のような大型SUVから軽自動車まで幅広く対応しており、これが110円というのは正直「価格破壊」と言っていいレベルです。
一方、キャンドゥ(Can Do)では、クッションタイプではなく「車用スリムポケット」という硬質のプラスチック製ケースが販売されていることがあります。
これは「埋める」というより「箱を置く」アプローチですが、隙間が広めの車種であれば、しっかりと固定され、かつ収納も増えるので選択肢としてアリです。
ダイソー(DAISO)でも店舗によって取り扱いは異なりますが、同様のクッションや、ネックパッドを代用するアイデア商品が見つかることがあります。
購入の際は、ぜひパッケージの裏面を見て「バックルを通す穴があるか」「サイズ(太さ)は自分の車の隙間に合っているか」を確認してみてください。
収納もできる専用ポケットで落下を防止する
「どうせ隙間を埋めるなら、ただ塞ぐだけじゃなくて有効活用したい」
「スマホや財布の置き場所がなくて、いつもドリンクホルダーを占領している」
そんな効率重視のあなたにおすすめなのが、Amazonや楽天、オートバックスなどのカー用品店で販売されている「収納ポケット一体型」の隙間対策グッズです。
これは、隙間を物理的にブロックして落下を防ぐ「防御」の機能と、新たな収納スペースを生み出す「攻撃」の機能を兼ね備えたハイブリッドなアイテムです。
一般的な形状は、薄型の箱やファイルボックスのような形をしており、下部にある「ベロ」のようなパーツをシートとコンソールの間に差し込んで固定します。
素材も、100均のような布製だけでなく、高級感のあるPUレザー(合成皮革)を使用したものが多く、革張りのシートの車や輸入車に取り付けても内装の質感を損なわないのが大きな魅力です。
さらに最近のトレンドとして、「USBポート搭載モデル」も人気を集めています。
これはポケット本体にUSB充電ポートが2口程度ついており、シガーソケットから電源を引くことで、収納したスマホをその場でスマートに充電できるというものです。
「スマホを置く場所」と「充電ケーブルの取り回し」という車内の2大課題を同時に解決できるため、ガジェット好きのドライバーから高い支持を得ています。
ただし、これらの高機能ポケットにはデメリットも存在します。
購入前に必ず確認してほしいポイントを以下の表にまとめました。
| タイプ | 特徴・機能 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|---|
| クッション型 (セリア等) | 柔軟な素材で隙間を物理的に塞ぐ | 安価(100円~)、シート形状を選ばずフィットする、シート移動に追従する | 収納機能はない、見た目がシンプルすぎる場合がある |
| ポケット型 (通販・用品店) | ハードまたはセミハード素材で箱状の収納を追加 | スマホ、財布、駐車券の定位置ができる、高級感のあるデザインが多い | シートの幅(座面)を圧迫して狭くなることがある、サイドブレーキ操作の邪魔になる場合がある |
| コンソール挿入型 (車種専用) | 特定の車種の形状に合わせて設計されたボード | 後付け感がなく純正のようなフィット感、ドリンクホルダー増設など多機能 | 価格が高い(数千円~)、適合車種以外には取り付け不可 |
膝への干渉に注意
ポケット型を選ぶ際、あまり厚みのあるものを選ぶと、運転中に太ももや膝の外側がポケットに当たってしまい、窮屈に感じることがあります。
特にスポーツカーやコンパクトカーなど、コクピットがタイトな車の場合は、薄型のタイプを選ぶか、あえてクッション型を選ぶのが賢明です。
シート下の配線やエアバッグには触れない

これは今回の記事の中で、最も真剣にお伝えしなければならない「安全」に関する話です。
少し脅すような言い方になってしまうかもしれませんが、あなたの身を守るために聞いてください。
「シートの下なんて、ただの床でしょ?」と思っていませんか?
実は現代の自動車において、シートの下は「高度な電子機器と火薬が集まる危険地帯」なのです。
近年の車は、シート自体に様々な機能が搭載されています。
シートベルトの装着有無を検知するセンサー、乗員の体重を検知してエアバッグの展開力を調整する着座センサー、冬場に嬉しいシートヒーター、そして電動パワーシートのモーターなどです。
これらの機器を制御するために、シートの下には無数の配線(ハーネス)とコネクター(カプラー)が張り巡らされています。
落下物を探す際や掃除をする際に、これらの配線を誤って引っ張ったり、カプラーを抜いてしまったりすると、取り返しのつかないトラブルを招く可能性があります。
特に、以下の「色の付いた配線」には絶対の注意を払ってください。
【警告】触れると危険な配線カラーコード
- 黄色いカプラー・配線(最重要):
これは世界共通の規格で「SRSエアバッグシステム」の回路であることを示しています。ここには、衝突時にシートベルトを瞬時に巻き取る「プリテンショナー」や、「サイドエアバッグ」を作動させるための信号線が含まれています。
もし通電中(バッテリーがつながっている状態)にこのコネクターを抜いたり、衝撃を与えたりすると、エアバッグが誤作動して暴発し、大怪我をする危険性があります。逆に、断線させてしまうと、いざという事故の時にエアバッグが開かず、命に関わる事態になります。 - オレンジ色の配線:
これはハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)特有のもので、「高電圧ケーブル」を示しています。駆動用バッテリーとモーターを繋ぐ動脈であり、数百ボルトの電圧がかかっています。絶縁被覆が破れていたりした場合、触れると感電死する恐れがあります。レスキュー隊員ですら、専門の絶縁工具を使って慎重に扱う領域です。
「邪魔だからちょっとコネクターを外して、物を取ったらまた挿せばいいや」という軽い気持ちで行うのは絶対にNGです。
たとえエンジンを切っていても、システム内に電力が残っている場合があり、一度でもコネクターを外すと車のコンピューターが「異常あり」と判断してメーターパネルに「エアバッグ警告灯」を点灯させます。
こうなると、元の通り挿し直しても警告灯は消えません。
ディーラーに持ち込み、専用の診断機を使ってエラーコードを消去してもらう必要があり、当然ながら数千円の技術料を請求されることになります。
(出典:日産自動車『レスキュー時の取り扱い(ARIYA)』 ※高電圧部位の識別色に関する記述を参照)
チョコなどが溶けて汚れた場合の掃除方法
「隙間に落としたのがスマホならまだマシだった…」
そう嘆きたくなるのが、食べ物の落下です。
特にこれからの季節、暖房をつけた車内で起こりやすいのが「チョコレートの溶解事故」です。
他にも、フライドポテト、飴、グミ、ソフトクリームなどが隙間に落ち、気づかずに放置してドロドロに溶けてしまった時の絶望感は筆舌に尽くしがたいものがあります。
シートのファブリック(布地)やカーペットの繊維に溶けたチョコレートや油分が入り込むと、単に見た目が汚いだけでなく、強烈な異臭を放ち始めます。
さらに最悪なことに、その甘い匂いに誘われて、アリやゴキブリ、ダニなどの害虫が車内に住み着く原因にもなりかねません。
もし汚してしまった場合、やってはいけないのが「乾いたティッシュでゴシゴシ擦る」ことです。
これを行うと、汚れを繊維の奥深くまで擦り込んでしまい、リカバリーが不可能になります。
自分でできる応急処置としては、以下の手順が有効です。
- 固形物が残っている場合は、スプーンなどで丁寧に取り除く。
- タオルを熱いお湯(40度~50度程度)で濡らし、固く絞る。
- 汚れの上からタオルを押し当て、熱で汚れを浮かせながら「叩き出す」ようにしてタオルに移し取る(擦らないのがコツ)。
- 食器用中性洗剤を薄めた液を含ませて同様に叩き、最後に水拭きで洗剤成分を完全に除去する。
しかし、隙間の奥深くや、シートレールのグリスと混ざってしまった汚れを完全に除去するのは、一般の方には非常に困難です。
もし「自分では無理だ」と感じたら、迷わずプロの「車内清掃(ルームクリーニング)」を頼りましょう。
オートバックスやイエローハットなどのカー用品店、あるいはキーパーラボ(KeePer LABO)などの洗車専門店では、業務用の「リンサー(水洗い掃除機)」や「強力スチームクリーナー」を備えています。
これらは、シートに洗剤と温水を噴射しながら瞬時に吸い取る機械で、繊維の奥に入り込んだ汚れを根こそぎ洗浄してくれます。
部分的なシミ抜きや清掃であれば、数千円~で対応してくれる店舗も多いです。
数万円のシートを買い換えることに比べれば、プロに頼んで新車のような清潔さを取り戻すのは、非常にコストパフォーマンスの高い投資と言えるでしょう。
どうしても無理ならJAFやディーラーに頼む
ここまで様々な方法を紹介してきましたが、状況によっては「どうしても取れない」「物がどこに行ったか全くわからない」「自分でやるのは壊しそうで怖い」というケースもあるでしょう。
そんな時は、無理をして事態を悪化させる前に、専門家の手を借りるのが正解です。
では、具体的にどこに頼めばいいのでしょうか?主な選択肢は以下の2つです。
1. JAF(日本自動車連盟)
「バッテリー上がり」や「パンク」のイメージが強いJAFですが、実は「車内への落とし物の救出」にも対応してくれます。
最大のメリットは、JAF会員であれば、基本的に「無料」で作業してくれることです。
24時間365日、場所を問わず駆けつけてくれる安心感は絶大です。
隊員の方は現場対応のプロフェッショナルなので、専用の工具やジャッキを使って、手際よく探索してくれます。
ただし、あくまで「ロードサービス(救援)」の一環であるため、分解整備に当たるような大掛かりなシート脱着や、本格的なクリーニングまでは対応できない場合があります。
また、非会員の場合は15,000円前後の出動料金がかかるため、コスト面での注意が必要です。
2. カーディーラー(正規販売店)
最も確実かつ安全なのが、その車を購入したディーラーや、同メーカーの整備工場に持ち込むことです。
彼らはその車の構造を熟知しており、シートを固定しているボルトの締め付けトルク管理や、配線の取り扱いについてもメーカー指定の正しい手順で行ってくれます。
必要であればシートを車外に完全に取り外して、フロアカーペットをめくって探すといった徹底的な作業も可能です。
費用は「時間工賃(レバレート)」計算になることが一般的です。
ディーラーにもよりますが、1時間あたり8,000円~10,000円程度が目安となります。
「たかが落とし物に1万円?」と思うかもしれませんが、スマートキーを紛失して再作成する場合、車種によっては3万円~10万円以上の費用がかかることを考えれば、確実に発見できるディーラー依頼は決して高い選択ではありません。

いかがでしたでしょうか。
車内での落下物は、単なる「うっかりミス」として片付けられがちですが、ドライバーにとっては運転の集中力を削ぐ深刻なストレス源であり、時にはペダル操作を妨げる事故の要因にもなり得る問題です。
もし物を落としてしまっても、決して焦って運転中に手を伸ばさないでください。
安全な場所に車を止め、スマホのライトとビデオ機能を使い、まずは「見る」ことから始めましょう。
そして、無事に回収できた暁には、ぜひ100円ショップのクッションでも、多機能なポケットでも構いませんので、あの「ブラックホール」を塞ぐ対策を講じてみてください。
「転ばぬ先の杖」ならぬ「落ちぬ先の隙間埋め」。
この記事が、あなたの快適で安全なカーライフを取り戻すための、小さくても確実な手助けになれば、これほど嬉しいことはありません。
次に車に乗る時は、足元スッキリ、気分もスッキリで出発しましょう!
※本記事で紹介したDIY手法やグッズの適合は、車種や年式によって異なります。作業を行う際は周囲の安全を確認し、自己責任にてお願いいたします。特に配線関係やシート脱着については、不安があれば無理をせず専門業者へご相談ください。
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